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馬の絵の話

先日、画家の黒坂麻衣さんが亡くなりました。訃報を知ったのはツイッターで、「亡くなったそう」というふわっとしたものだったので、誤報であってくれと思ったけれど、後日彼女のお母様が詳しいことをツイートしてくださっていて現実のことだと実感した。

  社会人2年目も終わりかけの頃、Twitterを眺めていたらとてもいい雰囲気の画像がついたツイートがあって、詳細を見てみたら画家の個展の告知ツイートだった。すぐに本人のSNSアカウントやウェブサイトを探して、そこで見た馬の絵が本当に好きになって、絶対その個展に行くぞ!と心に決めた。私が黒坂麻衣さんを知ったのはこのツイートが始まりだった。彼女を知ったのも、彼女が亡くなったことを知ったのもツイッターだった。

2017年にあった個展のあとから最近までずっと、スマホのロック画面に設定しているくらい、彼女の馬の絵が好きだ。馬はもともとやさしい顔をしていると思うけれど、彼女の馬からもそのやさしさや賢さがにじみ出てくるようで、見ていて穏やかな気持ちになる。 以前、友人たちと家に絵を飾るような暮らしをしたい、という話になったことがあった。その流れで「ハーブ&ドロシー」という映画を紹介してくれたのだけど、アートの専門家でもなく裕福というわけでもない夫婦が長年に渡ってこつこつと大小様々なアートを集めており、自分たちの「好き」を大切にした暮らしをしていて、とてもいいなと思った。アートを収集することは富豪の人に限った話ではなく、普通の人が手にとれるものもたくさんあるのだ。友人と話した時も、映画を見たあとも、じゃあ誰の絵を飾るのか、ということは全然思いつかなかったけれど、黒坂麻衣さんを知った時「この人だ!」と思った。

当時は社会人になったばかりだったこともあって絵を買うような余裕もなかったけれど、最近はようやくそういったことができるようになってきたし、引っ越した家に飾りたくて、次の個展では何か購入できたらな、と思っていた矢先のことだった。彼女の個展に行けたのは一度きりだったので本当に後悔している。彼女との関わりも、その個展でお見かけしたのと、SNSで「黒坂麻衣さんの馬の絵が大好き」という話をしたらご本人から「嬉しいです」というリプライがあったくらいだ。そのときに「あなたの絵を自宅に飾るのが目標です」ということをお伝えできたのはよかったかもしれない…。 誰かに紹介されたわけじゃなく偶然自分で見つけて、好きになって追っていた人が亡くなるのは初めてだと思う。直接の関わりがなくとも、何かのきっかけになった人・敬愛していた人がいなくなってしまうのはとても悲しくて寂しい。

本当にどうしてあの時無理して絵を買わなかったのかとか、画集だけでも手に入らないか、とか、今更後悔しても遅い。好きな人やものは今・この時が大切なんだなと実感した。 黒坂麻衣さん、あなたのおかげで私は馬の絵が好きになりました。ご冥福をお祈りします。